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米カリフォルニア州オレンジ郡を拠点に、英語と日本語の両方で記事を書く数少ないジャーナリスト。 アメリカの現地新聞社で、政治や経済、司法、スポーツなどあらゆる分野の記事を取材・執筆。 2012年には、住宅バブル崩壊が南カリフォルニア住民に与えた影響を調査した記事で、カリフォルニア新聞経営者協会の経済報道賞を受賞。2017年には、ディズニーや開発業者が行った政治献金を明るみに出した記事で、オレンジ郡記者団協会の調査報道賞を受賞。 大谷翔平の大リーグ移籍後は、米メディアで唯一の日本人番記者を務める。

2018年4月13日

大谷翔平の初ホームランボールを譲った男

日本での大谷翔平フィーバーがとんでもないことになっていますね。

アメリカでもエンゼルスファンの間で大谷選手の人気が急上昇しています。本拠地では今やチームの顔のマイク・トラウトをしのぐ声援を浴びているほどです。

現地時間4月3日、そんな大谷選手の初ホームランボールを「キャッチ」して、日本のテレビや新聞でも大きく取り上げられのが、9歳のマシュー・グティエレズ君。ホームランボールを大谷選手に引き渡す代わりに、本人からサイン入りのボールとバットをもらいました。

しかし、ほとんど日本で報道されなかったのが、実は最初にホームランボールを手にしたのはマシュー君ではなかったということ。

その試合を球場で取材していた僕は、どうやら男の子がホームランボールを持っているのがテレビに映ったと記者席で耳にし、インタビューしに外野席に向かいました。

ライトスタンドでは既に日本メディアのカメラマンがマシュー君の写真を撮影中。

彼らが去った後にマシュー君に話を聞くと、開口一番、前に座っている優しい男の人がくれたんだと言います。見ると若い男性のグループが、後ろの取材騒ぎを尻目に最前列で真剣に試合を見ています。

ボールを最初に拾ったという通路際に座る男性に本当かと訊ねると、「そうだよ」と何事もなかったかのような返事。

「(マシュー君)はエンゼルスのファンで、僕はインディアンズのファン。彼のほうが、ずっとありがたみがわかるはず」と言った彼は、インディアンズの本拠地クリーブランドに住む33歳のクリス・インコーバイアさん。

エンゼルスとの3連戦を見るためだけに、アナハイムまで来たとのこと。(クリーブランドとは3700キロ以上離れている)

何が起きたか詳しく聞くと、「打球がこっちに向かって飛んで来たから、隣に座っていた友達が『とりに行け!』って言ったんだ。でも人混みに飛び込むなんて嫌で待ってたら、ボールがすぐ近くの通路に落ちた。それを拾って、すぐに(隣にいた)男の子のグローブに入れたんだ」

その男の子がマシュー君だったのです。


(そう言われてホームランの動画を見返すと確かに映っています)

インコーバイアさんは、そのホームランボールの重要性は分かっていたと言います。

「でもそのありがたみが本当に分かる人が手にすることの方が重要だったんだ」

格好良すぎるセリフ。

しかもよく見ると、俳優のブラッドリー・クーパーに似ているではありませんか。

ということで、マシュー君とインコーバイアさんの写真を撮って、すぐに英語と日本語でツイッターに投稿すると、とてつもない勢いで拡散。ホームランボールをめぐって喧嘩になったり、子供から取り上げる大人もいたりする中で、インコーバイアさんの行動は日米問わずに人々の心をうったようです。(英語で書いた記事はこちら



マシュー君に聞くと、ホームランボールは、球場のスタッフが大谷選手に記念にあげたいとお願いにやってきたので、自らすすんで返したとのこと。

試合後にエンゼルスのロッカールームに行くと、そこには大谷選手との面会を待つマシュー君とインコーバイアさんがいました。

インコーバイアさんは大谷選手のユニフォームを手にしています。大谷に会えると分かって、サインをもらおうと急きょ球場のお店で買ったのだそう。

「インディアンズファンなのにいいのかい?」と尋ねると、

「これはすごいことだからね」と照れながら答えました。



翌日になって僕のツイートに気付いたインコーバイアさんの奥さんが、こんなコメントをしていました。

「うちの夫をとても誇りに思う!!本当に大きな心を持っている -- 私があなたを愛しているいくつもの理由の一つよ」

別の人の「ブラッドリー・クーパーってインディアンズファンなの?」という投稿には、「ほらー、あなたはブラッドリー・クーパーに似てるんだって」とコメント。

いかにもアメリカ人らしく、身内の人間を公の場でもちゃんと褒めていました。

なかなか日本人には難しいですが、ちょっと羨ましいですよね。

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