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米カリフォルニア州オレンジ郡を拠点に、英語と日本語の両方で記事を書く数少ないジャーナリスト。 アメリカの現地新聞社で、政治や経済、司法、スポーツなどあらゆる分野の記事を取材・執筆。 2012年には、住宅バブル崩壊が南カリフォルニア住民に与えた影響を調査した記事で、カリフォルニア新聞経営者協会の経済報道賞を受賞。2017年には、ディズニーや開発業者が行った政治献金を明るみに出した記事で、オレンジ郡記者団協会の調査報道賞を受賞。 大谷翔平の大リーグ移籍後は、米メディアで唯一の日本人番記者を務める。

2011年9月5日

運命の出会い:ボクとMac

スティーブ・ジョブズの辞任が大きな話題になった。日本でもジョブズに学ぶ経営術やらプレゼン術といった記事や本があふれている。iPhoneやiPodといったアップル社製品を使っている人はもう珍しくない。

でも、つい数年前まで、Macを使っているのは一部の愛好者だけで、ジョブズの名前を聞いたことがある日本人もあまりいなかった。

ボクがMacを愛用するようになったのは、大学でアメリカに一年間の交換留学をした時だ。子供の頃は、家にあったMacを使っていたが、いつの間にかWindowsに取って代わられていた。

ところが、デューク大学のコンピュータストアを初めて訪れた時、店頭に並んでいた銀色のノートパソコンを見て、心に衝撃が走った。

「なんて美しい機械なんだ」

スーパーのおもちゃコーナーに惹き寄せられる子供のように、いつのまにかその機械の前に立っていた。どこからともなく、色白のもやし君が隣にやってきて、「これは最新のOSを搭載したPowerBookなんだよ」と解説をし始めた。

彼がExposé機能を見せてくれた時、そのクールさに思わず声を上げた。彼が再び、今度はスローモーションでExposéをデモンストレーションしたので、ボクは"What was that?"(「今のは一体、何なの」)と興奮して聞いた。

Windowsが犬の糞に見えるほど美しいフォントとデザイン。細部までこだわり抜かれた使い勝手。一目惚れとはこのことである。

勝手に解説を始めた彼によると、これはMacなのだという。そして誇らしげに名刺を差し出してきた。

彼の肩書きは、デューク大学のアップル社キャンパス代表。聞こえはいいが、アップルが大学で自社製品を宣伝するための、いわば使いっ走りである。だがアップルを愛するオタク学生にとっては、無給だろうが、社割がなかろうが、アップルの代表という肩書きさえもらえれば至福なのである。

しかも彼の名前は、ボクと同じトム。まさに運命である。

ボクはいったん寮に戻った。部屋には日本から持ってきた東芝製ノートパソコンがある。買ったばかりだ。でも10分の道のりでボクの頭の中にあったのは、PowerBookに刻まれたリンゴマークの微笑みだけである。

当時のボクは完全に親の脛をかじっていた。しかし、恋する学生にとって、そんな事実に抑止力はない。

ボクは走り出していた(というのは大げさで、おそらく周りの目を気にして早歩きだった)。親が教育のためにと貯めていた資金をボクは惜しみなく差し出し、PowerBook 12インチを購入した。これを聞いた母親の反応は、恥ずかしくてここには書けない。

その日は徹夜でMacに向かった。一つの操作を覚えるとそれが他のソフトでの作業にも応用できるところがMacの魅力である。ほぼ一日で基本操作はマスターしてしまった。

初めてジョブズの基調講演も見た。文字だらけのスライドに疑問を抱いていた自分にとって、まさに理想とするプレゼンテーションだった。インターネットの動画で、ジョブズのプレゼンを何時間も研究した。ビジネスのクラスでは、一人だけ発売されたばかりのKeynoteを使って、写真と図を駆使したプレゼンを行った。慣れない英語でのスピーチだったが、ジョブズになりきる自分に酔いしれていた。

その後のボクとMacについては、チープな恋愛映画にもならないくらいののろけ話になるので割愛するが、PowerBookとジョブズがボクの人生の幅を広げてくれたというのは誇張ではない。

PowerBookを8年間使い続けて、最近ついにMacBook Proに買い替えた。ジョブズの辞任と同じ時期というのは偶然だが、ボクにとっても一つの時代が幕を閉じたということだろう。

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2 件のコメント:

  1. 気持ちがよく伝わってきました(笑
    実は私も昨日、MacBook Air 11インチを手に入れました。
    これからどんな使い方が展開されていくのか楽しみです。

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