主人公の少年が学校の授業で、「世界を変えるために何ができるか」という課題を出され、あるアイデアを思いつく。それは自分が受けた親切や優しさを、その相手にではなく、別の三人の誰かに返して善意の輪を広げていくというもの。「ペイ・バック」ではなく、「ペイ・フォワード」である。
この間、オフィスの近くにあるサブウェイに昼食を買いに行き、注文の途中で財布を忘れてきたことに気づいた。「オフィスに財布を取りに帰るから、サンドイッチをとっておいてくれませんか」と店員さんに頼んだところ、ちょうどレジで会計を終えた30代くらいの女性が、「彼の分も私が払うわ」と言い出した。
驚いたボクは、「オフィスがすぐ近くだから、いいですよ」と遠慮したが、彼女はカードを取り出してさっと支払いを済ませてしまった。ボクが熱心に感謝を述べると、その女性は、「いいのよ、他の誰かに渡してあげて(pass it on)」と言い、早足で出口に向かった。何とか彼女の名前がキャシーであるということは聞き出すことができた。
報道部に移ってからというもの、やれ何が欲しいとか、誰々のせいで生活が苦しいなどといった不満ばかりを耳にする。そんな毎日に正直うんざりしかけていただけに、今回のことは新鮮な体験だった。見返りを求めない親切心からは、もらったもの以上の幸せを感じることができる。
ペイ・フォワードは善意を渡す相手が、それを更に広めてくれるという信頼のもとに成り立つ。連鎖を断ち切らないためにも、キャシーの笑顔を忘れてはいけない。