自己紹介

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米カリフォルニア州オレンジ郡を拠点に、英語と日本語の両方で記事を書く数少ないジャーナリスト。 アメリカの現地新聞社で、政治や経済、司法、スポーツなどあらゆる分野の記事を取材・執筆。 2012年には、住宅バブル崩壊が南カリフォルニア住民に与えた影響を調査した記事で、カリフォルニア新聞経営者協会の経済報道賞を受賞。2017年には、ディズニーや開発業者が行った政治献金を明るみに出した記事で、オレンジ郡記者団協会の調査報道賞を受賞。 大谷翔平の大リーグ移籍後は、米メディアで唯一の日本人番記者を務める。

2010年12月27日

食欲のホリデーシーズン

肥満率ダントツ世界一のアメリカを支えているのが、感謝祭から元旦までのホリデーシーズン。家族の集まりや、友達同士のパーティーなどを言い訳に、暴飲暴食の日々が続く。ボクのオフィスでも、ほぼ毎日のように、同僚からの差し入れやポットラックパーティーがあった。

そして今年はクリスマスと元旦が土曜日に重なったため、クリスマスイブと大晦日の金曜日が振り替え休日となり三連休が続く。

日本ではクリスマスイブを豪勢に祝う人が多いが、アメリカでは25日のクリスマス当日にクリスマスディナーが振舞われる。日本と違って、アメリカのクリスマスは家族で過ごすもの。こっちに家族のいないボクを不憫に思ったアメリカ人が、感謝祭に引き続き、家族の集まりに招待してくれた。

報道部でインターネット担当のサラは、髪の色が常に変化する今どきの25歳。職場では寡黙ながら、酒を飲むと毒舌のパーティーガールに変身する。それでいて、親思いで料理もこなすしっかり者。サラにプレゼントを届け、レイカーズファンである彼女の家族とバスケの試合を観戦しながら、軽食をご馳走になった。

その後、仕事で知り合った公選弁護士デーブの家に招かれて夕食を食べた。デーブは以前、大きな法律事務所で働いていたが、その温厚で優しい性格が合わず、今の職に移った。そろそろ定年だが、シングルマザーの娘とその一人息子を引き取り、一緒に暮らしている。気さくな性格で、裁判所でお互いのことを話しているうちに仲良くなった。


母親に習ったという伝統的なクリスマス料理を一人で準備し、ボクや娘たちにふるまってくれた。アグレッシブでビジネスライクな(Type Aと呼ばれる)人が多いと言われる法曹界で、デーブのような存在は貴重である。いつかは恩返しをしたい。

ちなみにホリデーシーズン明けは、体重計に乗って恐怖につりつかれた人々で、フィットネスクラブが大繁盛する。新年の抱負で減量を掲げる人が多いのも納得である。

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2010年12月19日

サンタさんにお電話

うちの新聞では、この時期になると毎年、サンタ・ホットラインという無料サービスを行う。子供たちがサンタクロースに電話をかけて、欲しいプレゼントを伝えるというサービス。そのサンタ役をボクら従業員が演じる。

どうせイタズラ電話ばっかだろうと思い、これまで参加したことはなかったのだが、今年は編集長ドンの強い要請もあってやってみることにした。



ホットラインを設けた部屋に入ると、既に他の部署からのボランティアが、「ホッホッホー、もしもしサンタですが」などと低い声で電話を受けていた。サンタクロース役は男性が担当するのだが、サンタの奥さんであるMrs. Santaに話したいとリクエストをする子供もいるので、女性職員も近くで待機し、バックグラウンドで鈴を鳴らしてくれていた。

サンタクロースは、日本とアメリカではその仕組みが若干異なる。日本のサンタは子供の枕元にプレゼントを置いて帰るが、アメリカのサンタは暖炉にかけられた靴下の中や、リビングルームに置かれた大きなクリスマスツリーの下にプレゼントを残していく。日本の住宅事情では、こうした習慣は難しい。

もちろん共通している部分も多い。北極からトナカイのひくソリに載ってやってくること。子供が寝ている時にやってくること。そしていい子のところにしかやってこないこと等々。

最初はうまくできるか不安だったが、一度やり始めるとのってしまう性格なので、「ホッホッホー、北極のサンタクロースだけど、お名前は何ですか」と、電話越しに怪しいアジア人がいることも知らない無邪気な子供たちに話しかけた。ディズニーランドで、ミニーマウスに入っているおじさんの気分である。気のせいか隣にいる親の失笑が聞こえてきた。

大人から見れば、つっこみどころ満載のサンタクロースだが、ホットラインに電話をかけてくる子供たちは心からその存在を信じている。サンタが電話に出た途端、大きく喜びの声を上げる子供もいて、興奮する姿が目に浮かんだ。兄弟姉妹のいる場合は、みんなサンタさんに話したくて受話器のとりあいになることも。自分がちゃんと「いい子リスト」に載っていると分かった時の子供の嬉しそうな声を聞くと、どうしてもその願いをかなえてあげたくなってしまう。

人気のプレゼントはダントツでiPod。ただ親への金銭的な負担を考えて、「iPodは人気があって、中国のエルフ妖精たちが頑張って作っているけど、もしかしたら無理かもしれないから、他に欲しいものはあるかい」と曖昧な返答にとどめておいた。

男の子にはやはりゲーム機が人気。Wiiを欲しがる子供が多かったが、X-Boxもそれに劣らぬ勢い。プレイステーションを挙げる子供が少なかったのは、ソニーの不振を反映しているのか。

女の子の間で人気だったのが、ジャスティン・ビーバー。人気があるのは知っていたが、サンタを信じる年齢層まで広がっているとはちょっとビックリだった。コンサートチケットは入手困難でサンタでもとるのが難しく、現在ジャスティンと交渉中とだけ伝えた。



アパートに住んでいる女の子が馬が欲しいというので、馬は手間がかかるし、餌代もばかにならないから、ハムスターにしなさいと答えてやった。親は良心的なサンタに喜んだに違いない。

サンタに質問する子供もいて、そういう場合はこっちのクリエイティビティが試される。男の子が好きなスポーツは何と聞いてきたので、「サンタはフットボールが好きなんじゃ。だから太っているのだよ。ついこの間もラデニアン・トムリンソン(NFLのスター選手)と試合をしたばかりじゃ。君もちゃんと野菜を食べればサンタのように強くなれる」と教育的な回答をした。

当初、予想していたイタズラ電話は一件もこなかった。しかもサービス時間中、ずっと電話が鳴り響き、6人のボランティアが休むことなく対応し続けたにも関わらず、全てのお客さんには対応しきれなかった。

これだけ世の中にサンタクロースという存在に希望を抱いている子供たちがいることを知って、少しものの見方が変わった気がする。

この従業員は見た目もサンタである。 

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2010年12月9日

アメリカでマスクをする時はご注意を

アメリカに長く滞在している人は気付くかもしれないが、アメリカ人はマスクをしない。

最近、急に冷え込んできたため咳が出始め、周りの人に風邪をうつさないようにと、職場にマスクをしていくことにした。浮いた存在になることは間違いないが、健康と引き換えなら仕方のないことと腹をくくった。考えてみると、アメリカでマスクをするのはこれが初めてのことだ。

しかし、駐車場からオフィスまで歩いていると、人事のパトリシアが近づいてきて、「オフィスで何かあったの」と不安げな表情で聞いてきた。やっぱりきたかと思いながら、「いや、ただ、風邪をひいてるだけだよ」と説明。アメリカ人がマスクを見て想像するのは、鳥インフルエンザのような深刻な疫病の流行であって、やたらめったらにしていると、不安をかきたててしまう。

そしてオフィスに足を踏み入れると、みんなの鋭い視線を感じた。警察担当記者のビアトリスは、ボクを見るなり、「あんた、ほんとアジア人ね」と大爆笑。空港で見かけるアジア人はマスクをしているというのが、彼女のイメージらしい。

追い討ちをかけるように、市政担当記者のブルックが、「他人にうつさないためにしてるの?それとも自分が風邪を引かないようにするためなの?どっちにしろあんまり意味がないと思う」と言い放ち、面白がってiPhoneでとった写真をfacebookにのっける始末。

アメリカでは、うがいやマスクが日本のように浸透していない。むしろ、どちらも医学的に効果がないという見方が一般的である。



教育担当記者のナターシャは、「アジア人はファッションにうるさいのに、どうしてマスクはするの」と質問してきた。

逆にこっちから、「どうしてマスクをしないの」と聞いてみると、周りの目が気になるからという意見が大半をしめた。アメリカ人の目から見ると、マスクはダサいのだろう。

ある光景が、見る人の育った文化によって、全く異なった見え方をしてしまう例であろう。ちなみに、アメリカで男性が小さなカバンを持っていると、man purse(男のハンドバッグ)と呼んで馬鹿にされる。

その後もデスクの横を誰かが通る度に、「それは何なの」と尋ねられた。ボクがいない間に、ナターシャにコソコソと、トモヤに何があったのかと聞く輩もいたらしい。正直、予想以上の反応であった。みんなのためにと思ってやったことが、逆に同僚の不安をあおってしまった。

意地もあって、今日はマスクをつけてずっと仕事をしたが、さすがにマスクをして裁判所に行くのはやめようと思う。

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2010年12月3日

大統領の2倍の給与をもらう市職員

仕事後に、ジャーナリスト協会ロサンゼルス支部主催の講演を聴きに行ってきた。オフィスからダウンタウンまで1時間半近くかかるので、普段はなかなか出席できないのだが、今回は全米で話題になっているベル市職員の高給与問題をすっぱ抜いた記者が話すというので、チャンスを逃すわけにはいかない。

ベル市はロサンゼルス郡にある、人口4万人弱の小さな町。住民の四分の一が食料の無料配給を受ける、とても貧しい自治体である。そこの職員たちが、日本円にして数千万円もの給与を受け取っていることが分かったものだから、不景気に苦しむ国民は怒り心頭。

同市の総務責任者であるロバート・リゾーは、オバマ大統領の2倍近い78万ドル(約6700万円)もの給与を受け取っていた。リゾーは以前、ハイデザートのヒスペリア市で責任者を務めていたので、うちの新聞でも大きく取り上げた。

これをスクープしたのが、ロサンゼルスタイムズのジェフ・ゴットリーブとルーベン・バイブという記者で、今回の講演ではゴットリーブ氏が取材の経緯を語ってくれた。ロサンゼルスタイムズ本社の近くにあるバーには、南カリフォルニアで活動するジャーナリストが10人程集まって、ゴットリーブ氏を囲んだ。

他の参加者たちは、ほとんどがベテラン記者で、たぶん僕らが最も若かっただろう。小さな町に住んでいると、他のジャーナリストとの交流の機会があまりないので、こういう場は貴重である。

ゴットリーブ氏いわく、今回の事件にはウォーターゲートのような秘密の情報源がいたわけではないらしい。これまで他のジャーナリストや市民があまり注意を払っていなかった問題を、正攻法で調べあげたことが成果につながったという。基本に忠実であることの大切さはアスリートだけでなく、記者にもあてはまる。

6月に掲載されたゴットリーブ氏の調査記事をきっかけに、全米のメディアがいっせいに地元の公務員の給与を報道し始め、更には現職政治家に対する国民の目が一層厳しくなった。ベル市に関する一連の報道が、11月の中間選挙に少なからず影響を与えたことは間違いない。

ボクもいつか、読者のものの見方を変えてしまうくらいインパクトのある記事を書いてみたい。

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2010年12月2日

ペンは剣よりも強し

この一年間に自分が取り上げたテーマで、最も世間に影響を与えたのは、このブログにも書いた親子の心中自殺事件に間違いない。Facebookで自殺をほのめかしていた父親への接触禁止命令を求めていた母親を嘘つきだと言い、申し立てを拒否した判事に、地元のみならず、全米から非難の声があがった。結果、その判事は数ヵ月後の選挙において大差で敗北。いよいよ、今日が最後の勤務となる。

引退を間近に控えた彼にコメントをもらおうとしたが、「マスコミには話したくない」と断られてしまった。選挙前には、独占インタビューを得ることができたが、敗北がトラウマとなって、メディアに対して過剰反応を示すようになった。新聞やラジオの報道がきっかけで、人間不信に陥ってしまったようにも思う。

この事件を通じて、いかにジャーナリストとしての自分に、影響力と責任があるかを思い知った。ジャーナリストは、権力の監視役であるが、一歩間違えれば、自らが権力を濫用することもありうる。ペンは剣よりも強いからこそ、使う人には一層の謙虚さと高潔さが求められるのだ。

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