なでしこリーグの試合には数千人の観客が詰めかけ、雑誌やインターネットなどでは、なでしこジャパンに学ぶ経営論などといった便乗記事を目にする。彼女たちの活躍からすれば当然のことだが、心配なのは熱気が冷めた時である。
日本人はメディアやワイドショーの作り上げたブームに弱い。ボクはこれを勝手に、「クリスピークリーム現象」と呼んでいる。新宿サザンテラスに同名のドーナッツ店がオープンした際に、ワイドショーを見た人々が連日、長蛇の列を作ったことにちなんでいる。(アメリカでもクリスピークリームが、発祥地の南部から全米に店舗を拡大し、ブームになった時期があるが、今では業績不振で店舗閉鎖に追い込まれている)
アメリカでも日本でも、女子スポーツを含めたマイナースポーツは、オリンピックやワールドカップといった一時の盛り上がりに支えられている。オリンピックで個人や団体がメダルをとった後は、一気に盛り上がるが、4年間もブームが続くことは少ない。だけどその間も、選手たちはお金を稼ぎながら、毎日トレーニングを行わなければならない。
数年前に、なでしこリーグから、ハイデザートのセミプロチームに移籍してきた女子サッカー選手に取材したことがある。なでしこリーグの選手たちは、サッカー好きの投資家とアルバイトや親からの支援に頼りながら、大学や高校を卒業してもサッカーを続けているのだという。
少しでもいい環境でサッカーをしようとする意欲のある選手は、アメリカの大学やリーグに飛び込んでいく。もちろん通訳などはいない。アメリカの大学でプレイするには、教室内でもしっかり勉強しなくてはならない。しかも英語での授業。
男子の野球やサッカーと違って、彼女たちにレールは敷かれていない。自分の道は自分で切り開くしかないのだ。まばらな観客たちの前で声を張り上げてボールを蹴る彼女たちは、スポットライトを浴びて大金を得るためにスポーツをしているのではない。ただ、サッカーが好きで好きでたまらないのである。
なでしこジャパン優勝の陰には、そんなドラマがあることを知ってほしい。