2008年の松坂の成績は、防御率2.90で18勝3敗。一見すると、素晴らしい一年だったように見える。しかし、セイバーメトリクスの見解に立つと、彼はメジャーリーグで最もラッキーなピッチャーの一人だったということになるのだ。
投手の勝敗がチームの強さに大きく左右されるということは以前ブログで書いた。松坂が18勝3敗という記録を残せたのも、メジャー屈指のレッドソックス打撃陣に支えられたことは容易に想像がつく。
では防御率がアメリカン・リーグ3位というのはどうか。防御率は、勝敗成績に比べれば投手の実力を正確に反映していると言えるが、実はチームの守備力や球場の広さ、運などによって左右される部分も大きいのである。
以前紹介したFanGraphsには、各投手のBABIP(Batting Average on Balls In Play)という数値が載っている。BABIPとは、本塁打以外のフェアグランドに飛んだ打球がヒットになる確率を示す。言い換えれば、ホームランと三振を除いた打率のこと。これは、一度バットに当たった打球がヒットになるかは、投手が完全にコントロールできないという考えに基づいている。
いい投手であればあるほど、バットにボールを当てられてもアウトになる確率が高いと思われがちだが、客観的にデータを見てみると、ある一定以上の期間プレーしているほとんどの投手の通算BABIPは、.290から.300の範囲に収まっている。野茂英雄投手のメジャーでの通算BABIPは.293、ロジャー・クレメンスは.294、吉井理人投手は.291である。
よってある一年、極端にBABIPが低いというのは、それだけ運がよかったということでもあるのだ。松坂の昨年のBABIPは、.267と非常に低い。これなら防御率が2.90というのもうなずけるが、それを毎年というのは無理な話である。
次に、FIP(Fielding Independent Pitching)というデータを見てみる。これは、守備が関わる打球を排除した防御率を表す。BABIPと同じ考えにもとづき、三振、四死球、ホームランという、投手がコントロールできる結果だけをもとに割り出されている。面白いことに、FIPは防御率よりも、翌年の防御率と関連性が高いという結果が出ている。ちなみに松坂の2008年のFIPは4.03で、2.90よりずっと高い。
またFanGraphsには、フライ性の打球がホームランになった割合も記載されている。2008年の松坂は6.1パーセントで、2007年の10パーセントと2009年の15パーセントに比べるとずっと低いことが分かる。
昨年の松坂が、9回あたり5四球を与えながら2.90という防御率ですんだのは、運がよかったというしかない。
0 件のコメント:
コメントを投稿