この二週間で人事に大きな変化があった。
直属のボスであったスポーツ編集長が姉妹紙の編集長となり、ボクが報道部へ異動になったことで、スポーツ部に二人分の空きができた。そもそも四人しかいないスポーツ部から二人いっぺんに欠けるというのは無理な話で、臨時職員を一人スポーツ部にまわし、新しい人材を雇うまでボクがスポーツ部に残ることに。
スポーツ編集長職とボクの平記者職が埋まるまであと二週間はかかりそうなので、年末まではスポーツ部で働くことになりそう。このまま異動の話がなくなるなんてことにならなければいいのだが。
臨時職員としてスポーツ部に配属されたデーブは、元々うちの新聞で社会部編集長を務めていた敏腕記者である。数年前にロサンゼルス郊外にある大手新聞社に移ったのだが、不況の波をうけてリストラされ、直後にうちの編集長から声がかかったという。米国新聞業界の不況はうちのような小さな地方紙よりも、競争の激しい都会紙に大きな打撃を与えているのだ。
三十年近く新聞業界一筋で働いてきたデーブは、根っからの記者で、スポーツ部に配属早々、次々と記事のアイデアを提案し、毎日のように記事を書いている。人員不足の真っ最中、土曜日に高校フットボールのプレイオフ決勝戦が行われたが、彼のおかげで乗り切ることができた。この一週間だけでもデーブとの経験の差をまざまざと見せつけられた。
彼の緻密な取材と鋭いニュースへの嗅覚はオフィスにいても垣間見ることができる。記事を書いても、巧みな文章力はもちろんのこと、スポーツが専門外とは思えない文章構成。彼の仕事ぶりを観察しているだけでたくさんのことを学べる。ボクの記事を校正した時は、ただ直すのではなく、ボクにどうすればよくなるのかを考えさせるような的確な質問を投げかけてきてくれた。さすが元編集長。
とりあえずは臨時職員ということで、スポーツ部にまわされたデーブだが、平スポーツ記者として雇っておくのはあまりにもったいない。紙面デザインやスピードの要求される電話応対は慣れていないので、スポーツ部には不向きともいえる。それは編集長も承知のようで、近いうちにボクと一緒に報道部に移るらしい。
彼のような経験豊富な記者と机を並べて仕事ができるというだけで、今は楽しくてしょうがない。新しい職場に移るにあたって不安もあるが、師匠と呼べる存在が近くにいてくれるのは心強い。
ちなみに、偶然にもデーブは日本語を勉強していて、その時だけはボクが先生である。
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