うちの新聞では、この時期になると毎年、サンタ・ホットラインという無料サービスを行う。子供たちがサンタクロースに電話をかけて、欲しいプレゼントを伝えるというサービス。そのサンタ役をボクら従業員が演じる。
どうせイタズラ電話ばっかだろうと思い、これまで参加したことはなかったのだが、今年は編集長ドンの強い要請もあってやってみることにした。
ホットラインを設けた部屋に入ると、既に他の部署からのボランティアが、「ホッホッホー、もしもしサンタですが」などと低い声で電話を受けていた。サンタクロース役は男性が担当するのだが、サンタの奥さんであるMrs. Santaに話したいとリクエストをする子供もいるので、女性職員も近くで待機し、バックグラウンドで鈴を鳴らしてくれていた。
サンタクロースは、日本とアメリカではその仕組みが若干異なる。日本のサンタは子供の枕元にプレゼントを置いて帰るが、アメリカのサンタは暖炉にかけられた靴下の中や、リビングルームに置かれた大きなクリスマスツリーの下にプレゼントを残していく。日本の住宅事情では、こうした習慣は難しい。
もちろん共通している部分も多い。北極からトナカイのひくソリに載ってやってくること。子供が寝ている時にやってくること。そしていい子のところにしかやってこないこと等々。
最初はうまくできるか不安だったが、一度やり始めるとのってしまう性格なので、「ホッホッホー、北極のサンタクロースだけど、お名前は何ですか」と、電話越しに怪しいアジア人がいることも知らない無邪気な子供たちに話しかけた。ディズニーランドで、ミニーマウスに入っているおじさんの気分である。気のせいか隣にいる親の失笑が聞こえてきた。
大人から見れば、つっこみどころ満載のサンタクロースだが、ホットラインに電話をかけてくる子供たちは心からその存在を信じている。サンタが電話に出た途端、大きく喜びの声を上げる子供もいて、興奮する姿が目に浮かんだ。兄弟姉妹のいる場合は、みんなサンタさんに話したくて受話器のとりあいになることも。自分がちゃんと「いい子リスト」に載っていると分かった時の子供の嬉しそうな声を聞くと、どうしてもその願いをかなえてあげたくなってしまう。
人気のプレゼントはダントツでiPod。ただ親への金銭的な負担を考えて、「iPodは人気があって、中国のエルフ妖精たちが頑張って作っているけど、もしかしたら無理かもしれないから、他に欲しいものはあるかい」と曖昧な返答にとどめておいた。
男の子にはやはりゲーム機が人気。Wiiを欲しがる子供が多かったが、X-Boxもそれに劣らぬ勢い。プレイステーションを挙げる子供が少なかったのは、ソニーの不振を反映しているのか。
女の子の間で人気だったのが、ジャスティン・ビーバー。人気があるのは知っていたが、サンタを信じる年齢層まで広がっているとはちょっとビックリだった。コンサートチケットは入手困難でサンタでもとるのが難しく、現在ジャスティンと交渉中とだけ伝えた。
アパートに住んでいる女の子が馬が欲しいというので、馬は手間がかかるし、餌代もばかにならないから、ハムスターにしなさいと答えてやった。親は良心的なサンタに喜んだに違いない。
サンタに質問する子供もいて、そういう場合はこっちのクリエイティビティが試される。男の子が好きなスポーツは何と聞いてきたので、「サンタはフットボールが好きなんじゃ。だから太っているのだよ。ついこの間もラデニアン・トムリンソン(NFLのスター選手)と試合をしたばかりじゃ。君もちゃんと野菜を食べればサンタのように強くなれる」と教育的な回答をした。
当初、予想していたイタズラ電話は一件もこなかった。しかもサービス時間中、ずっと電話が鳴り響き、6人のボランティアが休むことなく対応し続けたにも関わらず、全てのお客さんには対応しきれなかった。
これだけ世の中にサンタクロースという存在に希望を抱いている子供たちがいることを知って、少しものの見方が変わった気がする。
この従業員は見た目もサンタである。